2011年7月号

I 労使トラブルに「合同労組」が関与するケースが増加●「合同労組」関与の事件割合が過去最高
先日、中央労働委員会から、「平成22年全国の労使紛争取扱件数まとめ」が発表されました。近年、労使トラブルに「合同労組」「ユニオン」などの会社外の団体が関与するケースが増えていますが、「合同労組」が関与した集団的労使紛争事件の割合が69.8%(前年比3.1%増)となり、過去最高となったことがわかりました。

●「合同労組」の特徴
合同労組のなかでも、「"柔軟路線"をとる組合」「イデオロギー性の強い"労使対立路線"をとる組合」など、その性格は様々です。また、「"労使対立路線"の組合」であっても、冷静に落としどころを考える組合、逆にあまり考えない組合もあるようです。

●駆け込み訴え事件の増加
労働者が、労使トラブルの解決のため合同労組に加入し、その合同労組が使用者に団体交渉を申し入れてくる例も多くあります。中央労働委員会のまとめでは、懲戒や解雇などの処分を受けた後に、労働者が組合に加入して調整を申請した「駆け込み訴え事件」は、全体の36.8%(前年比横ばい)で、過去最高となっています。

●対応策
「合同労組」「ユニオン」などから団体交渉の申入れがなされた場合、初めにとるべき対応が重要となります。まず、団体交渉を拒否できない相手なのかどうかを確認します。申入れが合法で拒否できない場合は、専門家に相談するなど、しっかりと事前準備を行いましょう。また、組合側が求めてくる「労働協約」の締結要求にも注意が必要です。

II 社会保障改革案の「安心3本柱」とは?●安心3本柱
政府は、「安心3本柱」を中心とした社会保障改革案の内容を発表しました。「安心3本柱」とは
(1)パートなどの非正規従業員への社会保険の適用拡大
(2)幼稚園や保育園の垣根をなくす「幼保一体化」の推進(子育て支援)
(3)医療・介護を中心に自己負担の合計額に上限を設定する「合算上限制度」導入

●年金制度の改革案
年金制度改革案の具体策
(1)パートなど非正規従業員の社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象者を、現在の「週30時間以上勤務」から「週20時間以上勤務」に拡大
(2)厚生年金保険料の免除期間を、育児休業中だけでなく、産前・産後の休業期間まで拡げる

一方、高収入の加入者については、保険料の負担増を求める方向です。厚生年金保険料は、給与額に応じて決まる仕組みになっていますが、改革案では上限額を引き上げる考えです。

●60歳代前半の就労促進
60~64歳で働きながら老齢厚生年金を受け取る場合、年金と給与の合計額が月額28万円を超えると、28万円を超えた分の半分だけ受け取る年金が減り、46万円超では給与の増加分だけ年金がカットされる仕組みとなっています。現在、この仕組みにより、約120万人の方の年金が総額1兆円程度減額されています。今後、給与と年金の合計額が46万円を超えるまで年金を減額しない仕組みに変更し、年金の減額幅縮小により、60歳代前半の就労意欲アップにつながるよう検討されています。

III 「執行役員は労働者」労災不認定を取り消し出張先で死亡した建設機械販売会社の執行役員の男性について、労働基準監督署が「執行役員は労災保険法上の労働者に当たらない」と遺族補償を不支給と判断した事件。これを不当として、妻が処分取り消しを求めた訴訟の判決が東京地裁でありました。青野洋士裁判長は、勤務実態などから、この男性を「労働者」と認め、処分取消しを命じました。

●経緯
男性は2005年2月、出張先の福島県内で倒れて死亡しました。妻は船橋労働基準監督署に遺族補償の給付を求めましたが、監督署は「労働者性」がないことを理由に、死亡と業務の因果関係を判断せずに請求を却下しました。「労働者性」の判断について、裁判長は「会社の指揮監督の下に業務を行い、報酬を得ているかを実態に即して判断すべきだ」と指摘。その上で、男性が経営会議への出席を除いて、執行役員としての独自業務がなく、取締役会にも参加していないことなどから「実質的に一般従業員と同じだ」と結論付けました。

IV コンビニ「名ばかり店長」が勝訴 会社に支払い命令コンビニ「SHOP99」が、店長を管理職扱いして残業代を支払わないのは違法として、元店長(31)=休職中=が、運営会社「九九プラス」(東京都新宿区)を相手に、未払い残業代と慰謝料など約450万円を求めた事件。この訴訟の判決が、東京地裁立川支部でありました。東京地裁立川支部は、職務内容や権限・待遇などから「店長は管理監督者に当たらない」として、残業代など約164万円の支払いを命じました。

裁判長は、「店長自らレジ精算などを行うことが常態化しており、給与も店長昇格前を超えることはなかった」と指摘。「長時間の過酷な勤務が原因となって、清水さんはうつ病を発症した」と判断しました。元店長は2006年9月に正社員として入社。2007年6月から店長に昇格。店長昇格後、月80時間を超える残業が続き、うつ病を発症。2007年10月から休職していました。
小売・飲食店の店長などが、「労働基準法上の管理監督者」であるかどうかについては、以下の3要素により判断されています。

(1)職務内容と権限(経営者と一体的な立場にあるかどうか)
(2)勤務態様(出退勤の自己裁量があるかどうか)
(3)給与待遇(優遇されているか 時間単価に換算してパート・アルバイトより上か)

監修 :中島光利、木嵜真一、八木義昭

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