2012年2月号

I 「人材への投資」を「企業の収益」に ●好業績企業の秘訣は?
長引く不況や円高など、企業を取り巻く環境が非常に厳しい中、好業績を維持している企業の秘訣は「人材の育成」や「人材の上手な活用」にあるようです。新聞報道によれば、2012年3月期まで5期連続(5期以上も含む)で経常増益を予想する3月期決算の上場企業を調査したところ、小売業やネット関連事業など、内需型企業を中心に32社が並んだそうです。事業が国内中心であるため、海外景気の影響を受けにくいメリットもありますが、それだけではなく、これら好業績企業の多くが、「待遇」や「人づくり」の面で独自の手法を確立し、人材活性化を果たしているようです。

●パート社員の戦力化を果たしたスーパー
関東を中心に営業展開する食品スーパーでは、1万人以上いるパート社員の戦力化を図ったことが、企業成長の原動力となったそうです。例えば、従来は正社員が行っていた業務(価格設定、商品発注など)をパート社員に移管し、また、地域トップ水準の給料を確保してパート社員の士気を高めたそうです。これにより、店舗に常駐する正社員を削減することができたとのことです。なお、上記の連続増益が見込まれる32社の過去5年の人件費をみると、毎年平均で2.9%増加していました。全上場企業の平均で0.8%減っているのとは対照的に、人材投資・待遇確保に意欲的であることがわかります。

●企業にとっての課題は?
人材への投資を企業の収益に繋げる仕組みは企業によって様々ですが、「仕事を通じて自らが成長できる道筋を企業が示すことが、人材活性化には不可欠」と考えられています。不景気による市場の縮小を乗り切るため、人件費削減で利益を確保するケースもありますが、収入増を伴わなければ持続的な成長を望むことはできません。限られた経営資源をもとに人材に投資し、次の収益拡大に繋げることが、より重要となっています。貴社にとっても、取り組むべき課題の一つではないでしょうか。

II 通勤手当の非課税限度額の見直し ●見直しの内容
通勤手当については、「交通機関の定期代等」と「自動車など(距離比例)」の2つの通勤方法に区分され、それぞれ非課税となる金額が決まっています。これまで「自動車など(距離比例)」に該当する人のうち「通勤距離が片道15キロメートル以上」の場合に限り、距離比例での上限額を超えても、「交通機関定期代相当額」までは非課税となる特例がありました。今年1月以降、この特例が廃止されてしまいました。そのため、「通勤距離が片道15キロメートル以上」の従業員がいる場合は、非課税で計上できる金額が変更となる可能性があります。給与計算時にはご注意下さい。

片道の通勤距離 1か月当たりの限度額
交通機関の定期代等 1ヶ月あたりの合理的な運賃等の額
(上限100,000円)
2キロメートル未満 全額課税
2キロメートル以上10キロメートル未満 4,100円
10キロメートル以上15キロメートル未満 6,500円
15キロメートル以上25キロメートル未満 11,300円
25キロメートル以上35キロメートル未満 16,100円
35キロメートル以上45キロメートル未満 20,900円
45キロメートル以上 24,500円

III 心理的負荷による精神障害の労災認定の基準が変更されました! 最近、精神障害の労災請求件数が大幅に増加し、認定の審査には平均約8.6か月がかかっています。そのため、厚生労働省は「審査の迅速化」「効率化」を図るため、新たに「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定め、2011年の年末に都道府県労働局長に通知しました。基準がどのように変更されたのか、概要を紹介します。

<心理的負荷の評価に関する改善事項>

  改正前 改正後
評価方法 2段階による評価
出来事の評価+出来事後の評価
→総合評価
1段階による評価
出来事+出来事後の総合評価
特別な出来事 ・極度の長時間労働
・生死に関わる事故への遭遇等心理的負荷が極度のもの
「極度の長時間労働」を月160時間程度の時間外労働と明示
「心理的負荷が極度のもの」に強姦やわいせつ行為等を例示
具体例 心理的負荷評価表には記載なし 「強」「中」「弱」の心理的負荷の具体例を記載
労働時間 具体的な時間外労働時間数については、恒常的長時間労働を除き定めていない 強い心理的負荷となる時間外労働時間数等を記載
発病直前の連続した2か月間に、1月当たり約120時間以上
発病直前の連続した3か月間に、1月当たり約100時間以上
「中」の出来事後に、月100時間程度 等
評価期間 例外なく発病前おおむね6か月以内の出来事のみ評価 基本的には発病前おおむね6か月以内の出来事で評価
ただし、セクシュアルハラスメントやいじめが長期間継続する場合には6か月を超えて評価
複数の出来事 一部を除き具体的な評価方法を定めていない 具体的な評価方法を記載
・強+中又は弱 → 強
・中+中... → 強又は中
・中+弱 → 中*
・弱+弱 → 弱*
*近接の程度、出来事の数、その内容で総合判断
発病者の悪化 既に発病していた場合には、悪化しても労災対象としない 発病後でも、特に強い心理的負荷で悪化した場合には、労災対象とする

ポイント
(1) 分かりやすい心理的負荷評価表(ストレスの強度の評価表)が定められた
(2) いじめやセクシュアルハラスメントのように、出来事が繰り返されるものについては、その開始時からのすべての行為を対象として、心理的負荷を評価することとされた
(3) 精神科医の合議による判定は、判断が難しい事案のみに限定することとされた

監修 :中島光利、木嵜真一、八木義昭

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